みぐるみん

身ぐるみ脱ぎ捨て自由に生きる。おひとり様引退ナースが人生でやり残したことをやるために創った空間です。

桜が散るまえに…ある桜の物語を書き留めておきます。

こんにちは。mimikobitoです。

はじめに

ブログを始めて最初の春でした。

みなさんのところに伺っていろんな桜を見て、

今年は贅沢なお花見ができたことに感謝しています。

桜が散るまえに

前回記事のコメント欄で、

桜のイラストを好きだと言ってくださる方が

いらっしゃいました。ありがとうございました!

特に願いや祈りを込めたわけではないのですが、

無意識に心の声が反映されたようです。

たとえ一発野郎であったにしても…

あとで気付いたささやかな桜のエピソード。

2022年の桜が散るまえに書き留めておきます。

桜と母ちゃんとわたし

2008年の春、

桜が咲く前に母ちゃんは入院した。

病院前のバス停沿いには桜が咲いていた。

まだ3月の肌寒い間、バスで病院に通った。

病室からも遠くの桜が見えた。

母ちゃんと一緒にいたけど独りで見た桜。

母ちゃんは癌性髄膜炎で失明していたし、

もう最初の境界線を超えて

半分お花畑でスヤスヤ眠り込んでいたから。

「母ちゃん、桜満開や。きれいやで」

「へぇ〜あ〜そう〜」

娘だということはわかっていて、

「そりゃ〜わたしが産んだもん〜♪」

たまに確認すると母ちゃんはいつも

ひょうひょうと答えた。

 

延命処置は望まなかった。

急変時も自然のまま看取ると決意した。

できる限りの治療は自らチャレンジしてきたし、

余命半年宣告を覆して14年生き延びたのだ。

外来受診の帰り道に立ち寄ったスーパーのトイレで、

突然立ち上がれなくなると同時に

排泄障害もきてウンチまみれで救出された。

人一倍恥ずかしがり屋の母ちゃんは、

その時点で散ることを選んだ気がした。

 

満開の桜はどんなに引き止めても

毎日毎日少しずつ散っていく。

パッと咲いて潔く散る。

日本人が愛する桜のはかなさと潔さ。

去り際の美学がそこにある。

 

まだ通いの付き添いをしていた頃だ。

奇跡的に三度の食事の時だけは

ちゃんと起きて楽しそうに食べてくれる。

食べることが趣味みたいな人だった。

だから毎食2時間近くかかって食事介助した。

夕食介助を終えマウスケアを済ませると、

もう病棟の消灯時間ギリギリになる。

洗濯物の入ったレジ袋を抱えて

誰もいない病院の自販機コーナーで、

カップのホットカフェモカを飲んでから

1時間に2本ほどしかないバスを待つ。

 

バス停のベンチで毎日夜桜を見た。

田舎の真っ暗な夜に桜色がよく映えた。

路面を覆う花びらが増えるのが怖かった。

桜と共に母ちゃんも散る気がして怯えた。

バス停の桜は、毎日慰めてくれた。

あのね、咲いて散るのは悪いことじゃないよ。

それが「地球に生きる」ってこと。

来年また、次の生命に出逢えるんだから。

桜の声が聴こえた気がした。

声の後ろで、アンドレ・ギャニオン

「めぐり逢い」が微かに響いた。

 


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桜が散ったあと、

わたしたち母娘は大病院から転院した。

新緑の兆しを感じながら、

病院の搬送車で最後のドライブをした。

「母ちゃん、葉っぱがきれいやな」

返事はもう返ってこなかったけど、

わたしの心は晴れていた。

不思議なくらい毅然としていた。

これからわたしは最愛の人を手放す。

バス停の桜が教えてくれたように、

散り際の美学を見届けよう。

母ちゃんと過ごす最後の春が終わった。

桜が咲くまえに入院し、

桜とともに最後の大舞台を生ききって、

新緑とともに地球を退院した。

おわりに

2008年3月3日の緊急入院から、

狙ったわけでもないのにちょうど2ヶ月。

2008年5月2日午後6時35分。

日没と共に母は永眠しました。

先程の曲は告別式でもなぜか使った曲です。

自分で選んだのかどうかも覚えていませんが。

ちょうど母の日が近い頃でしたから、

祭壇を飾る花は全て真っ赤なカーネーション

ブログでも断片的に母ネタを書いてきました。

父の介護要員として実家に戻ってから、

一度は吹っ切れていたいろんな感情が

処理しきれずに心の奥底にあったと知りました。

執着が捨てきれない自分を責めたこともあった。

だからでしょうか…

14年間お花見ができなかった。

桜並木を通り過ぎることはあっても、

立ち止まって桜をじっくりみるのが辛かった。

なのにふと、気が付くと桜を描いていた。

それが2022年の桜イラストでした。

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もーえーっちゅうねん。

まだ出すか…どんだけ嬉しかったんやろね(笑)

褒められると本気で嬉しいウキっキー野郎…。

ちなみにイラストの「おむすび」は、

母ちゃんの手料理の中で一番好きだったもの。

クサガメのきっちゃんは、幼い甥が貰ってきて

実家に置き去りにした(孫あるあるでしょうねw)

赤ちゃんの頃から母ちゃんが育ててきた子です。

 

桜の季節が完全に終わるまでに、

バス停の夜桜イラストを仕上げたいと思います。

それで桜シリーズは完結ですね。

うっかり最後まで読んで下さったみなさん、

個人的な思い出にお付き合い頂き、

ありがとうございました。

では、また!